外食経営の真髄を学ぶ-らぁ麺 はやし田/新宿

外食経営の真髄を学ぶ-らぁ麺 はやし田/新宿

究極の鶏系醤油-はやし田から学ぶ外食経営の真髄

新宿マルイ本館の裏手に行列のできるラーメン屋がある。それがここ「らぁ麺はやし田」だ。

もともと新宿に本店を構えていたのが、あまりの人気ぶりに今では都内に4店舗、横浜に1店舗と多店舗展開をしている。また、実は他ブランドの経営もしており、歌舞伎町の有名店「鳳仙花」も当店の兄弟ブランドだ。

当店のウリは何といっても超ハイレベルな鶏系だしを使用した醤油ラーメンである。メニューにはシンプルな醤油ラーメン、つけ麺、トリュフを使ったまぜ麺、のどぐろそばと基本的には四種類存在し、もちろん私はいずれの麺も食べたことがあるのだが、どれも計算しつくされた美味さだ。食べログの点数は3.85点(2020.12時点)とその人気ぶりが裏打ちされている。

そんなはやし田であるが、私が最も注目するのはそのオペレーション力である。基本的に人気なラーメン屋と言えば1時間ほどであれば並ぶのが当たり前である。経営側の目線に立てばその行列をいかに処理するかという点に注目すべきであると思うのだが、意外とそれができていない店が多い。個店であれば特に、だ。

特に単価が取れず店舗スペースもなかなか取れない都心のラーメン屋であれば回転数が至上命題であるはずだ。参考までに簡単なシミュレーションを行ってみよう。少し考えれば簡単に分かると思うが、外食の一日当たりの売り上げはだいたい以下の式で算出できる。

(売上高 / 日) = (席数) x (席の占有率) x (客単価) x (1時間あたりの回転数) x (営業時間)

簡単のため都心の繁盛店を仮定し、席数は10席、1日の営業時間を昼夜で6時間(360分)、行列店は常に満席(席の占有率は常に100%)で客単価が1,000円とすると、

(売上高 / 日) = (10,000円) x (360分 / 1回転にかかる時間)

となる。つまり、” すでに繁盛しているラーメン屋 “が売上をさらに伸ばそうと思うと、自助努力で取れる選択肢は非常に限られており、「営業時間を延ばす」、「客単価を上げる」、「回転数を上げる」のいずれかになるのである。

「営業時間」については、長い時間うだうだとやっていると、特に夜遅い時間は行列もなくなり席の占有率が落ちるだろう。人件費なども考えると、ある占有率を下回るとコスト的に採算が取れないラインというものは存在する。したがって、効率的に稼ぐという観点ではやはりぎゅっと絞った時間の中で、席が埋まる時間帯のうちにしっかり稼ぐというのが金科玉条であり、有名店がだいたい20時ごろに閉めるのもそういった理由だろう。

また、ラーメンには「1,000円の壁」があるため、安易に値上げもしづらい。もちろんトッピングや丼もの、サイドメニューなどで客単価を上げることもできるが、結局買うかどうかは「客のみぞ知る」ので安定はしないだろう。それにサイドメニューをつけるとどうしても回転数が落ちてしまうので、そのあたりはぶっちゃけ甲乙つけがたい。

仮にサイドメニューとして非常に美味しい餃子を単価300円で導入したとしよう。これを三人に一人が注文するとして、全体の客単価が100円、つまり10%アップし1,100円になったとする。この場合、前述の式に照らし合わせると、少なくとも売上高を維持するために許容できる1回転にかかる時間の増加幅は、同じ10%である。つまり普段1回転にかかる時間が25分の店であれば、2分30秒までであれば回転時間の増加を許容できる。

しかし、ここでよく考えてみよう。新たにメニューを用意して必死になって客単価を上げたところで、1回転にかかる時間が2分やそこら増えると、売上高は導入前と変わらないのである。餃子の焼き時間は5分~10分かかり、その間にラーメンも用意しながら客も捌かなければならず、そして客の食事時間も増える。この中で2.5分以内の回転時間の増加で抑えるのはなかなかに難しいだろう。

仮に全体の売上高が若干増えたとしても、餃子の仕入れコストや餃子の焼き手の人件費などの増加分も考えると利益率は確実に下がるだろう。そうなると、その労力の分だけ無駄になってしまうのだ。したがって、ぶっちゃけ手間がかかるようなサイドメニューは、待ち行列のある時間帯には出さない方が良い可能性が高いのである。

このように、「サイドメニューで客単価アップ」というのは一見聞こえは良いようだが諸刃の剣なのだ。導入するのであれば、回転数と利益率を落とさない仕組みを綿密に設計する必要がある。となれば、もし出すとするならばさっと出せてさっと食べられるものだとか、待ち行列のいない時間帯に出すのがベストだろう。待ち行列がなく店内に空席があれば、回転もくそもないからだ。ランチの時間帯でメニューを絞る外食店舗が多いのには、こういった理屈がある。

話をもとに戻そう。そこで売上高を増やすために最も着手すべきは、「回転数を上げる」ことになる。ここはひとたび改善すれば、普遍的に売り上げが伸びる要素だ。もちろん言うは易しだが、これは簡単なことではない。

私はどのラーメン屋に行っても必ず1回転当たりの時間を測るようにしているのだが、行列のできる店はどこに行ってもだいたい1回転当たり25分前後だ。そのあたりに無頓着でひどい店ともなると30分程度になる店もある。

しかし、はやし田はなんと驚異の1回転あたり15~20分で捌くのである。

これがどのくらいのインパクトがあるかというと、先ほどの式を使って月間の売上高を算出してみよう。月の営業日数を25日とすると、1回転当たり30分のA社と15分のB社それぞれの売り上げは、

(A社の売上高 / 月) = 日販12万円 x 25営業日 = 300万円

(B社の売上高 / 月) = 日販24万円 x 25営業日 = 600万円

と、倍も違うことになる。客が居座る時間を短くするだけで、ひと月当たり300万円、年間に直すと3,600万円ものインパクトがあるのだ。ここまでくれば、いかに「早く回転させること」がシンプルで重要な要素であるかわかってもらえるだろう。

そこで注目すべきは、「どうやって早く回すか」であるが、回転にかかる時間を分解すると、

「回転にかかる時間」 = 「提供までにかかる時間」 + 「客が食べる時間」

となる。このうち店側が変えられるのは前者の「提供時間」だ。極まれに後者を早くしようと客に威圧的な態度をとり、あまりにも食べるのが遅い客であれば問答無用で追い出す店もあるが、正直私から言わせると論外だ。たしかに金儲けは重要な要素ではあるが、そういった接客態度はさすがに客を金としか見ていない証拠だろう。(もちろん後ろに並びがあるのに食後にスマホをいじって居座り続けるような客などは早く追い出すべきである。)

何となく皆さんもそういう店が想像できるんじゃないでしょうか。えぇ、お察しの通り「二郎」のような店のことですね。あれは独特の商品ですからハマる気持ちも分かりますが、ああいう店は決して褒め称えたくはないですね。ああいった接客も含めて「二郎の世界観」とか言っちゃってますが、内実は売り上げを稼ぎたいだけでしょう。商売のアイデアとしては実に稚拙でしょうもないですね。小学生並みの幼いアイデアです。

話は逸れましたが、「提供時間の短縮」の部分にはやし田の極意があります。まず行列に並ぶ客からあらかじめ食券を買ってもらい回収しておく。そして席に着く時間を限りなく正確に予測し着席とほぼ同時に着丼するのだ。読んでいると簡単なように思えるが、これは非常に難しいことなのである。それをどんなに混んでいても平然とやってのけるはやし田は本当に凄い。

そして当店の何が一番凄いかというと、このようなオペレーションを他の店舗でもきっちり再現していること。他の店舗にも行きましたが、私の舌では味も本店とほとんど変わりません。飲食店経営者ならわかっていただけると思いますが、このレベルの味とオペレーションを多店舗で実現するのはまじで本当に凄いことです。

経営者の方は並々ならぬ努力をしておられるのでしょう、そういった努力まで思いを馳せると、より一層ラーメンが美味しく感じるものです。

前置きが凄まじく長くなってしまったが、今回も例にもれず着席から着丼までのスピードがすごかった。

透き通ったスープは鶏のコクと醤油のほのかな香りが凄まじく絶妙なバランスで抽出されている。大山鶏を惜しむことなく使用したダシだそう。また表面に浮いた鶏油が本当に素晴らしい風味を演出している。この油、若干独特な風味があるのだが、これはトリュフを使っているのだろうか?はっきりとは分からないがそんな気がする。

勿論替え玉まで頼んでフィニッシュ。なんと替え玉の提供スピードも早かった。

味だけでなくオペレーションにも本気で取り組んでおり、私の最も大好きなラーメン屋のひとつです。また営業時間も昼の部は16時まで通しで営業しており、15時を過ぎるとさすがに空いてくる日も多いため入りやすく、非常に使い勝手の良い店でもあります。

次来るときはつけ麺やまぜそばも食べてみよう。毎度そう思いながら退店するのだが、なぜか再訪時には忘れて醤油ラーメンを頼んでしまう。そうやって何度も足を運んでしまう私であった。

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