複雑すぎる家系ラーメンの家系図

複雑すぎる家系ラーメンの家系図

物騒な家系界隈の論理を紐解く一助となれ

本日は「三ん寅」、「マーリー軒」に続き三度目のラーメンウォーカー企画で恵比寿にやってきた。「らぁめん冠尾」の純白湯らぁめんが何と一杯無料になる神クーポンだ。

無料ラーメンを食べた後はダンロにでも行って美味しいケーキを食べて帰ろうという妄想に浸りながらワクワクした足取りで当店へ向かう。

が、店内でクーポンを見せると、なんと5月頃に原材料の値上げの影響ですでに無料キャンペーンは終わってしまったらしい。最悪だ。ラーメンウォーカーは毎年九月ごろに発売されるのだが、やはりクーポンは発売して半年以内をめどに使用するのが吉なのだろう。この教訓を糧に私はまた強くなる。

というわけで当店を退出し代わりに私が恵比寿で一番大好きなラーメン屋「綾川」へ向かった。しかし、いざ来てみると到着する直前で麺が切れ終了してしまったらしい。なんて日だ。

今日はなんとしてもラーメンを食べて帰りたい。それも、どちらかというとこってりとしたヤツだ。どこにしようかと悩んでぶらぶらしていると、ふとアイツが目に留まった。

横浜家系ラーメン「町田商店」だ。こんなところにあったっけ?と思い調べてみると、つい最近(2022.7.19)オープンしたばかりだそう。これは運命に違いない。私の胃も当店へ行けと命じるので本日は当店でお世話になることにした。

西日本出身で学生時代はずっと大阪にいた私にとって、家系ラーメンはぶっちゃけ人生の大半でなじみのない食べ物であった。関西では大衆ラーメンといえば「天一」や油そば「きりん寺」、一蘭や一風堂などの豚骨が主流で、家系ラーメンは邪道というか、あまりポピュラーな選択肢ではなかった。

そんな私が初めて上京した時、東京人が非常に家系ラーメンを好んで食べており、人々の日常に溶け込んでいることに驚いた。逆に関西ではポピュラーな「天一」を食べたことがない人は多いし、「きりん寺」のようなあっさりとした油そばと似たような店は「麺珍亭(めんちんてい)」くらいしかなく、基本東京の油そばといえば「油そば学会」のようなタレの濃いものが多いのだ。この辺りは本当にカルチャーショックを受けた。

そんな私が人生で初めて食べた家系ラーメンは、みなさんご存じ今では至る所にある「壱角家」で、私は普通に美味しいと感じたのだが、それを東京の友人に伝えたところ「それは家系ラーメンではない」と全否定され、「本当の家系ラーメンを知りたいなら、まずはカジュアルに食べられるところから。早稲田の武蔵家に行ってみろ。」という指令が下さた。そうして人生で二番目に食べたのが早稲田の「武蔵家」だ。

この二つの家系ラーメンを食べて以来、いくつか店舗を巡ったのだが、家系ラーメンには大雑把に二種類あることに気付いた。一種目がまさに「武蔵家」のような、キリっとした醤油のコクが強いタイプの家系で、東京人はこういうタイプこそ本物の家系ラーメンだと言わんばかりのプライドを持っている(偏見だったらごめんなさい)。二種目は「町田商店」や「壱角家」のような、醤油のキリっとした感覚は抑えつつ鶏油や豚骨ベースの比較的マイルドな口当たりのものだ。

後者のような店の大宗が町田商店や壱角家のようなチェーン店で構成されており、そういうわけか「チェーンだから本物じゃないし、旨くもないのだ」と言い放つ自称家系原理主義者に私はたくさん出会ったのだが、私から言わせてみれば彼らのような人間は、家系の歴史を知らないモブでしかなく、笑止千万だ。

というわけで、今日は軽く家系の歴史とその家系図を振り返ってみよう。すべてを話すとキリがないので、軽く紹介するにとどめておきます。

家系は1974年、横浜市磯子区にある新杉田駅近くの国道16号沿いに開業した「吉村家」に端を発する。創業者の吉村実氏は当時流行の兆しを見せていた、醤油ラーメンでありながら九州ラーメンのような豚骨を炊き出したコクのある、東京スタイルの豚骨醤油ラーメンを進化させた。「家系ラーメン」という名が付いたのも、現在家系ラーメンに「〇〇家」という店名が多いのも、保守本流である当店をリスペクトしてのことである。

モチモチとした太麺。それにチーユと呼ばれる鶏の油を表面に浮かせ、スープには鶏ガラも加えより濃厚にする。丼には大きくて硬い海苔を3枚に、分厚いチャーシュー、そしてこれまでラーメンの具の定番とされたネギやメンマを廃し、ほうれん草を乗せるスタイルを確立し、以降当店で学んだ人間が暖簾分けを繰り返しながら多くの分派を作っている。

もちろん当店は今も健在で、家系原理主義者だけでなく多くの人々から愛されている名店だ。当店から直接分派した「直系」と呼ばれる店もいくつかあり、吉村実氏のご子息が経営する「厚木家」や吉村氏の一番弟子で東大卒元商社マンという異色の経歴を持つ津村氏が経営する「杉田家」などがそうだ。

そして「直系」で学びさらに分派するループが築かれ、また、家系のブームに乗っかろうと新規参入者も加わり、家系ラーメンの家系図はどんどん複雑になっていき、今となっては東京や神奈川であればどこの駅にも何かしらの家系ラーメンが見つかるくらいにはポピュラーな大衆食となった。ちなみにホンモノの家系ラーメン原理主義者は直系までを家系ラーメンと呼び、それ以外の店はすべて邪道だと切り捨てるくらいには過激な人たちです。そこまでいくとかなり危険な思想の持ち主なので、私はあまり関わらないようにしています。

そんな家系ラーメンの歴史の中で、もう一つ重要な家系図を紹介しよう。それが「壱六家」を頂点とする家系図だ。もともと当店は乳白色でクリーミー・マイルドな家系の保守本流とも言うべき店で、ウズラの卵なんかを採用したのも当店だ。最近ではキリっと醤油の立つ味に変化した(してしまったというべきか)というのは、家系玄人の間ではあまりにも有名な話である。

そんな「壱六家」を運営する「有限会社ヒロキ・アドバンス」から独立し今の「ギフト・コーポレーション」となる母体を2008年に設立したのが田川翔氏で、彼がその会社でプロデュースしたのが、他でもない、あの「町田商店」なのだ。町田商店の他にも地域に根差す形で「〇〇商店」の名で多数出店しており、直営店とフランチャイズ店含め全国400店舗以上を展開。池袋にもある「豚星」なんかも当会社の運営するブランドだ。2018年にマザーズに上場しており、ラーメン関連だけで昨期の売上高が130億円を超えるメガチェーンなのだ。

ちなみに冒頭で触れた「壱角家」だが、こちらは町田商店の人気っぷりとその勢いをみて2015年に看板などの雰囲気をもろにパクって開業したチェーン店だ。運営会社は株式会社ガーデン。味含め雰囲気も本当にそっくりなので、消費者の皆さんはどれも同じ会社だと思っている人が多いだろう。消費者にとってそんなことは大した問題ではなく、全く気にもしないし味が良ければそれでいいのだ。

話をもとに戻すと、町田商店は創業当時の壱六家の味をリスペクトして開発されており、今もそのスタイルは変わっていない。つまり、東京のエセ家系原理主義者の否定する「町田商店」は、今はなき創業当時の壱六家本来の味を食べたい本物の家系玄人が通う、素晴らしい店なのだ。歴史を軽視している人間は非常に浅い知識と偏見でこのチェーン店を小馬鹿にしていたのだが、同時に彼らは自らの無知をさらしているのだ。これほど愚かなブーメランはなかなかないだろう。

家系については、チェーンすら許さない口うるさい過激的な原理主義者が沢山いるのであまりこれ以上は話さないでおくが、50年ほどの歴史の中でたくさんの家系図があり、またその家系(かけい)や本元・修行先が非常に重視される保守的な業界なのだ。

グルメであり一消費者である私は、どちらかと言えば歴史の深さよりも「美味ければそれでいい」と思う派でありますので、チェーンだろうがウマけりゃそれでいいんですけどね。

というわけで本題である町田商店のラーメンに話を戻そう。まず先に話すと、私はここのラーメンが大好きだ。武蔵家や以前読者の勧めで訪問した目黒の「麺屋 黒」のようなキリっとした家系も好きではあるが、どちらかというと私はマイルド・クリーミー系の家系が好みだ。

野菜ラーメンの大盛(900円 + 100円)を注文。麺の硬さ・醤油の味の濃さ・油の量をお好みで選べます。何度も通いつめ私が見つけた結論編成、「全部普通」でお願いしました。

皆さんもご存じだと思いますが壱角家はこの辺りも徹底的にパクっています。本当にそっくりだ。

味変アイテムが充実しており、しょうがや豆板醤、にんにくなどがたっぷりと使用できます。

また、家系の代名詞「白ご飯」とよく合う漬物や刻みたまねぎなんかも無料という太っ腹。

というか、できたばかりだからか店内がめちゃくちゃ綺麗だ。そのおかげか、恵比寿という立地のおかげか女性客も多い。私が良く通っていた門前仲町の壱角家は店内が汚くて女性客もいなかったもんだからプチびっくり。これだけ綺麗だとまた来たいと自然に思ってしまいますね。

スープの炊き込みなんかもセントラルキッチンで行われているので店内はクサくもなりにくいし油で汚れたりもしにくいんだと思います。一般的には軽蔑されがちなセントラルキッチンですが、実は様々なメリットがあるんですな。ちなみにランチの時間は白ご飯が無料。

野菜たっぷりラーメンが着丼。

久しぶりに食べたんだけど、めちゃくちゃうめー。クリーミーな豚骨醤油ベースのスープと鶏油・太麺の相性がたまらん。ガッツリ食べたいときはこれに限りますなあ。ほうれん草をはじめ、野菜もたっぷりなのでもはや健康食品です。

この中太麺が美味いんだ。

本当は大盛を頼んでいたのですが、店員さんの手違いで並盛とライスが届いてしまいました。正直ライスを見るとライスが食べたくなったのでこのままでもよかったのですが、

別皿で大盛相当分の麺をくれ、さらにチャーシュー一枚と間違えて出したご飯は無料で差し上げるとのこと。太っ腹すぎませんか!ぶっちゃけお腹は苦しかったけど、出されたメシは残せない主義の私は精一杯食べ切りましたよ。

それにしてもスープかけた飯の美味さたるや。一週間頑張った自分へのご褒美です。ご馳走さまでした、非常に美味しかった。

色々と議論の絶えない家系界隈ですが、私からすれば美味しければそれでいいの一言に尽きます。ただでさえ食の好みなんて人それぞれなのに、家柄や歴史なんかもちだしたらそりゃあ戦争は絶えません。人の好みを受け入れ、相互に尊重しあえる平和な世間になることを心の底から祈っている。

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