香味徳/倉吉

香味徳/倉吉

鳥取の伝家の宝刀「牛骨ラーメン」の名店

久しぶりに鳥取県にやってきた。今回は仕事の用事で鳥取県中部の倉吉市に寄ったのだが、そんなことはどうでだっていい。前回倉吉に来た時に食べてからどうしても忘れられないアレが早く食べたい。そんな一心であの店までやってきた。

そう、牛骨ラーメン「香味徳」だ。倉吉駅から歩いて10分と、車社会の田舎にしては奇跡的な好立地である。香味徳といえば私に初めて牛骨ラーメンとは何たるかを教えてくれた、地元では多くの人に愛されている名店で、鳥取県中部に三店舗(倉吉・赤崎・由良)、東京銀座に一店舗ある。

もちろん銀座の店舗にも行ったことはあるのだが、あそこは東京風にアレンジしてあり倉吉の味とは大きく違うので、どうしてもここの味が恋しかった。最近東京でもちょくちょく見かけるカップ麺「鳥取ゴールド」なんかは銀座の味に非常に近い。普通に美味しいので皆さんもスーパーなどで見かけた際は是非食べてみて欲しい。

これ。

店舗に入ってみるとものすごく懐かしい香りがする。私も地方出身なのだが、この地方の食堂特有の香りというか、雰囲気がものすごく落ち着く。店内には漫画が置いてあり、TVが流れている。これぞ田舎の原風景だ。

ていうか、ラーメン安すぎないか?

今どき東京では並盛で800円は下らない時代となったが、まさかの一杯570円。このプライシングで果たして経営の方はやっていけているのだろうか。心配になってしまう。

ラーメン(570円)を注文。これだよ、これ。牛骨の香りとスープの表面に浮かぶたっぷりのアブラ。しかもデフォルトでタマゴが付いているという価格破壊ぶり。

スープはかなり淡い色に見えるが、これは恐らく白醤油を使用している。この辺りにはたくさんの牛骨ラーメン店があるのだが、基本的には白醤油を使用した淡い色のラーメンが多く、店によっては「醤油ラーメン」というネーミングで、通常の醤油を使用した中華そばのような色合いの牛骨ラーメンを出している店もある。

当店のスープは非常にやさしい味わいで、アブラの膜に覆われた牛骨の香りが、口に含んだ瞬間ふわっと広がる。

麺はツルっとしたやや縮れ麺。のどごしが良く、ちゅるちゅると箸が進む。

牛骨の代名詞といえば味変アイテムの胡椒。胡椒との相性が非常に良く、これまで数多くのラーメンを食べてきたが、胡椒と最もよく合うラーメン部門圧倒的ナンバーワンだ。前述のカップ麺「鳥取ゴールド」にも胡椒が入っている。

変わらぬ美味しさで安心した。ただ一点だけ残念だったのがチャーシューだ。以前伺った際のものに比べ明らかにパサついており肉自体の質が落ちていた。昨今の原料高などで豚や小麦の値段が上がっており、原価を考えるとさすがにこれまで通りではやっていけないのであろう。優しい味わいのスープも、タレの量を若干減らしている可能性がある。

実際食後に食べログの口コミを見てみると、「ダシの量が不安定」「牛骨のパンチが昔ほど効いていない」との声が目立つ。レビュワーはみなどうしてしまったんだろうとみな不思議がっているが、東京から来た部外者の目には一瞬でその原因が分かる。ただひとつ、安すぎるのだ。

今どき田舎の超低価格のテナント料でも、そもそもの客数が少ないはずなので、この値段での運営は厳しすぎると思う。提供価格をどうしても変えたくなくて食材の質を落としてしまうのは飲食店あるあるなのだが、お客さんの舌は想像以上に敏感だ。軽微な味の変化すら常連は敏感に感じ取り「理由は分からないけどなんか違う気がするなあ。昔の方が良かった」となるものである。

特に田舎の人間は「昔の方が良かった」バイアスが強い生き物だ。これは決して地方の人間を馬鹿にしているわけではなく、温故知新の心を持ち、伝統を大切にしながらも新しきを取り入れていくマインドを大切にしており、ハリボテのような変化を毛嫌いする風潮が特に強いのだ。

そういう意味では、懇切丁寧に値上げを受け入れてもらうべきなのではなかろうか。常連ならそれをきっと受け入れてくれるだろうし、受け入れるべきである。少なくともラーメンを730円くらいにして、タレの量を増やし以前のようなチャーシューを2,3枚くらい盛っていれば、それでも十分安くて美味しいラーメンだ。

私のような部外者からすれば、このように言うは易しだが、やはり地方のドメスティックなビジネスは難しいのだろうか。値上げできない苦悩と原料価格との天秤に悩むその姿が、一杯のラーメンから繊細に感じとれた。

その苦労が分かるからこそ、私はチャーシューの質が落ちていようと何も不満を感じない。心の底から応援しています。皆さんも是非行ってみてください。美味しいですよ、牛骨ラーメン。

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